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こんにちは、TKです。
今回ご紹介するのは、東野圭吾さんの『嘘をもうひとつだけ』です。
当作品には、嘘によって隠された真相を、加賀恭一郎が暴いていくという短編物語が、計5つ掲載されております。
簡単な感想から言うと、ちょっと物足りなかったですね。
どの短編もつまらないってことはありませんけど、過去の作品と比較すると、やや内容が薄く感じてしまいます。
当作品は加賀恭一郎シリーズの6作品目でして、それまでの5作品は全て1つの物語だけが掲載されていました。
ゆえに、ストーリーに厚みがあり、いずれも没入感を持って読みすすめられました。
ただ、今回は短編集ということもあって、どうしても過去の作品と比較すると薄さを感じます。
「いちいち比較するなよ」と言われればその通りなんですけど、やっぱシリーズものなので、無意識のレベルで比較してしまいますね。
まあ、色々書きましたけど、いずれも話は良くできています。
ただ、オススメできるほどではなかったというのが、素直な感想です。
では、それぞれの短編のあらすじと、簡単な感想を述べていきます。
今回の記事では短編別に、あらすじ・感想を述べていきますが、ネタバレになるような情報はほぼほぼ無いので、安心して読み進めてください。
『嘘をもうひとつだけ』の詳細
作品名 | 嘘をもうひとつだけ |
---|---|
著者 | 東野圭吾 |
発売日 | 2000年4月10日 |
ページ数 | 269(文庫) |
①「嘘をもうひとつだけ」のあらすじ・感想
あらすじ
バレエ団のダンサーが、バルコニーから転落死した。
どう見ても自殺と思われたが、加賀恭一郎の目は誤魔化せない。
被害者が握ってしまった深い闇から、真相を暴き出す。
感想
バレエの話が出てくると、どうしても2作品目の『眠りの森』を彷彿とさせますね。
『眠りの森』も、バレエ団が事件の舞台でしたから。
ただ、今回事件が起きた舞台は『眠りの森』で登場したバレエ団とは全く関係がない、別のバレエ団です。
この短編の見どころは、ラストシーンですね。
加賀が犯人に対して決め台詞をぶつけるんですけど、それに対する犯人の返しが好きです。
まあ、ちょっと作り込まれすぎたセリフなんで、人によってはちょっとクサく見えるかもしれませんが。
ただ、クサいというかベタというか、キマリすぎてる表現が僕は好きなので、結構気に入りました。
あと良かったのは、心理面から疑問を見出すシーンですね。
加賀の特徴として、人の心理を蔑ろにしないことがあげられます。
理屈は通っていても心理的に納得できなければ、その結論を受け入れない。
こういう頑固な姿勢が煙たがれる加賀ですが、僕からしたらかなり好印象ですね。
②「冷たい灼熱」のあらすじ・感想
あらすじ
仕事から帰ると、家が真っ暗だった。
いつもと違う我が家の様子に、男は不安を募らせる。
「美枝子、いないのか」
隣に聞こえそうなほどの声を出し、男は家の廊下を進んでいく。
洗面所に辿り着きドアを開けると、そこには倒れた美枝子がいた。
感想
仕事が終わって家に帰ったら、妻が倒れていたという分かりやすい導入です。
ただ、最後まで読み進めて真相が分かった瞬間はですね、「うわー!そういうことか」と、なかなかびっくりされられましたね。
ネタバレをしないように曖昧に言うと、これは社会派の物語です。
読み終わった後には、「こういう事が無くなればいいな」と、ほんのり悲しさを感じると思います。
また、実は事件の真相については作品の中で明言されないんですよ。
それとなく分かるように描かれている感じなので、人によっては「どういうこと?」となるかもです。
また、これはどの作品にも通じますが、いろんな証拠が話の中で出てくるんですけど、いずれも最終的にちゃんと回収されるのが凄いです。
些細な証拠が全部伏線になっているので、ぜひ集中して読み進めてください。
③「第二の希望」のあらすじ・感想
あらすじ
家に帰ると、そこには交際相手の死体があった。
なぜ交際相手は殺されたのか。
一体誰が殺したのか。
第二の希望を、加賀恭一郎が暴く。
感想
これは家に帰ったら、毛利という交際相手が死んでいた話です。
結論から言うと、そんな殺し方できる?と、ちょっと面食らいましたね。
話の筋は通っており、そこに疑問はないのですが、そこだけ引っ掛かりました。
加賀が殺し方を何食わぬ顔で語るシーンがあるんですけど、「よくその方法に納得できたなぁ」という感じです。
また、この話はタイトルの回収の仕方が好きですね。
加賀は作中で「第二の希望」という表現を2回使います。
ただ、1回目と2回目に込められた意図は、全く違うんですけど、それがいいんですよね。
1回目は軽い感じで使って、2回目は深刻な感じで使う。
こういう回収の仕方が、オシャレでいいですよねぇ。
まあ、あんまり語りすぎるとネタバレになりますので、この辺にしておきますが。
あと、話の本筋からは逸れるのですが、この短編の節々に、東野圭吾さんが書いた『容疑者Xの献身』を感じました。
あまり詳しくは言えないですけど、『容疑者Xの献身』のストーリーを知っている方であれば、僕の言っている意味がわかるんじゃないかなと思います。
ぜひ、『容疑者Xの献身』もちょっと意識しながら読んでみてください。
④「狂った計算」のあらすじ・感想
あらすじ
「死んでくれればいいのに」
夫である隆昌の横暴さに耐えかねた奈央子は、不倫相手につい本音を漏らす。
奈央子の願いを叶えるべく奮闘した不倫相手だったが、肝心なところで計算が狂う。
人の傲慢さに踏み込んだ、悲哀溢れるミステリー。
感想
不倫相手と結託して夫を殺そうとする、あるあるの話です。
結論から言うと、5つの短編の中で一番好きですね。
理由は、印象に残る表現が溢れているお話だったからです。
では、具体的に印象に残った箇所を、2つほどご紹介します。
実直そうな隆昌に好感は持っていたが、男性として好きだと言えるほどの感情はなかった。会う約束をしていても、胸がときめいたことなど一度もない。
友人とコンサートに行く約束をしている時のほうが、はるかにわくわくした。それでも周りからの強い勧めに押される形で、奈央子は結婚を承諾した。
自分の年齢が気になり始めてもいた。同僚たちは次々に寿退社をしていく。このまま独身で会社にいてもいいことはないだろうという気もしていた。
出典:嘘をもうひとつだけp184
この描写、好きですね。結婚って、表面上は素晴らしいことに見えますよね。
でも、実際はこういう達観しているというか、冷めている感じで結婚する人もいるだなあと思うと、なんだか心が冷静さを取り戻すんですよね。
もう一点、印象に残ったのは以下のシーンです。
「すごいなあ兄貴、よくあんな人を東京で見つけたよな」
「馬鹿野郎。見つけるんじゃない。教育するんだ。甘やかすとつけあがるから、ふだんからビシッと締め付けてるんだよ。おまえらも嫁さんをもらったら、絶対に甘い顔を見せるなよ。女なんか、教育次第でどうにでもなるんだからな」
出典:嘘をもうひとつだけp199
これは、隆昌と隆昌の弟との会話です。
実家で奈央子が文句も言わずに家事をやっている近くで、こういう事を言う男なんですね隆昌は。
誰が見ても、めっちゃクソな夫ですよね(笑)。
これは好きなシーンではないですけど、現実世界でもこういうこともあるんだろうなと思うと、心が落ち着きますね。
辛かったとしても、しっかりとリアルを突きつけてくれる方が僕は好きです。
また、「冷たい灼熱」と同様に、この短編のある描写に東野圭吾さんが書いた『容疑者Xの献身』を感じました。
こんな感じで、全く異なる作品からも関連性が見出せる事が、同じ著者の作品を読み倒す面白さかなと思います。
⑤「友の助言」のあらすじ・感想
あらすじ
運転中に、謎の睡魔が襲ってきた。
男は突然の事態に対処できず事故を起こすが、一命を取り留める。
事故の裏に隠された真相を、親友の加賀恭一郎が厳しくも暴く。
感想
「事故の当事者は加賀の親友」という設定の短編です。
当事者が加賀と知り合いという設定、実は結構好きなんですよ。
なんでかと言いますと、深い対話を経て真相に辿り着いてくれるからです。
加賀は相手のことを内面まで熟知していますから、証拠が無かったとしても、おかしな発言に気がつけるわけです。
加賀の魅力は違和感やキャラといった曖昧な部分から真相に辿り着くところなので、今回の短編はその魅力が発揮されていると言えます。
まとめ
今回は、『嘘をもうひとつだけ』のあらすじ・感想について書いてみました。
短編集なのでちょっと薄さを感じてしまいましたが、世の中で起きる事件は濃いものばかりじゃないので、そういう意味ではリアルだったかなと思います。
では、以上となります。
最後まで見て頂き、ありがとうございました。