こんにちは、TKです。
今回ご紹介するのは、東野圭吾さんの『私が彼を殺した』です。
当作品では、多種多様な状況証拠から、3人のうち一体誰が犯人であるのかを加賀恭一郎が突き止めるという物語が描かれております。
簡単な感想から言うと、結構難しかったです!
実はこの作品、最後のセリフが「犯人はあなたです」なんですよ。
どういうことかと言うと、犯人が誰であるかが明言されないで物語が終わりを迎えるということです。
「犯人が誰なのかはここまでに出た証拠で分かるはずだから、頑張って推理してみてね」という、東野圭吾さんからの挑戦状とも受け取れます。
ちなみに僕は、犯人が誰なのか分からなかったです(笑)。
巻末には「推理の手引き」という袋とじがありまして、それを読めばだいぶ真相が分かるようになっています。
正直に告白しますが、「推理の手引き」を読んでも、僕は真相が分からなかったです・・・。お恥ずかしいですが。
で、最終的にはネットでネタバレ解説の記事を読んだんですけど、それでやっと真相が分かりましたね。
ただ、読解力と集中力が高い方なら、「推理の手引き」まで読めば真相には迫れると思います。
まあ、なかなか難しめの内容でしたが、それでもかなりドキドキワクワクしながら読めました。
登場人物の心理描写にリアリティがあるので、没入感を持って読み進められると思います。
また、話の流れがめっちゃ難しいということはありません。
犯人を当てるのが難しいのであって、話の流れはスッと把握できます。
今回の記事では、あらすじ・登場人物・感想を述べていきますが、ネタバレになるような情報はほぼほぼ無いので、安心して読み進めてください。
『私が彼を殺した』の詳細
作品名 | 私が彼を殺した |
---|---|
著者 | 東野圭吾 |
発売日 | 1999年2月5日 |
ページ数 | 431(文庫) |
あらすじ
新郎が、式中に謎の突然死。
騒然とする現場の中で、企みが成功したことを噛みしめる「私」。
容疑者は3人。
愛と憎悪が渦巻く、難解なミステリー。
主な登場人物
加賀 恭一郎(かが きょういちろう)
主人公。
練馬署の刑事。
真実を突き止めることへの執念が凄まじく、どんな些細なことも決して軽視しない胆力があります。
主人公にも関わらず、最初の登場シーンが物語の半分弱まで進んだ箇所と、結構遅めだったのがほんのちょっと気になりました。
神林 貴弘(かんばやし たかひろ)
幼い頃に両親が交通事故で死亡。
唯一の家族である妹は、別々の親戚に引き取られまして、15年ぶりに再開した際には一緒に住むようになります。
妹に対して、恋愛感情を抱いています。
それゆえに、妹の婚約相手(穂高誠)を嫌っています。
神林 美和子(かんばやし みわこ)
貴弘の妹。
趣味で詩を書いていたら、本を出版するまでになったという天性の才能の持ち主です。
兄に対して恋愛感情を抱いています。
つまり、両想いということです。
穂高 誠(ほだか まこと)
美和子の婚約相手。
結婚式にいろんな注文をつけることから、強引な人物というな印象です。
ただ、駿河が横領した金を立て替える男気があります。
女癖が相当に悪く、女性からしたら本当に嫌な人物だと思います。
駿河 直之(するが なおゆき)
穂高のマネージャー。
大学で映画研究会に入っていまして、穂高とはそこで出会っています。
横領した金を立て替えてもらった手前穂高のために働いているが、内心は結構嫌っています。
雪笹 香織(ゆきざさ かおり)
美和子の編集担当者。
穂高の編集担当者でもあり、2人が結婚するキッカケになっています。
過去に穂高誠とは、男女の関係にありました。
浪岡 準子(なみおか じゅんこ)
動物看護士。
穂高に裏切られたことで恨んでいる女性。
穂高の家で服毒自殺を図ったことから、相当な恨みがあったことが窺えます。
感想
では、淡々と感想を述べていきます。
主観だけで進んでいくのが良い
『私が彼を殺した』の特徴として、最初から最後まで、ある3人の主観のみで語られているという構成になっています。
で、その3人が今回の事件の容疑者というわけです。
ただ、事件の核心に迫るような描写は絶妙に省かれているので、主観で語っているにも関わらず、誰が犯人なのかは最後まで分からないんですね。
この構成の良いところは、感情移入しやすいところです。
主観で語っていますので、些細な心の動きが鮮明に描かれているんですけど、そういうのが僕は好きなんですよ。
細かい心理描写があると、その人物に自分の感情を憑依させることができますから、物語の世界に入り込んでいる没入感を味わえます。
薬の話がマジで混乱する
今回の事件の真相を暴く鍵は、薬の行方にあります。
薬が被害者の死因だということは早めにわかるのですが、誰がいつどのように仕込んだかが全くわからないというのが、当作品の概要とも言えます。
で、話が進むにつれて薬に関する情報がいくつも出てくるのですが、めっちゃ混乱します。
特に最後の方は情報が錯綜して、状況が二転三転するので、「え?今どうなってる?わからん!」という感覚になりますね(笑)。
ただ、その二転三転する様子が凄く緊迫感があり面白いので、後味は良かったです。
違和感に焦点を当てる描写が好き
他の作品でも出てくる描写ではあるのですが、「理屈は通っているけど、違和感があるから納得できない」という旨の描写が当作品に出てきます。
ちょっとネタバレになりそうなので詳細な記述は控えますけど、ざっくり言うと、「もし自殺するとしても、そんなシチュエーションで自殺するなんて納得できない。もし自分だったら、別のシチュエーションで自殺するよ」という感じのセリフがあります。
僕は、こういう違和感に寄り添う描写がめっちゃ好きなんですよ。
なぜなら、理屈通りの説明よりも、感覚的に納得できる説明の方が本質に迫れるという考えを、なんとなく僕は持っているからです。
だから、こういう違和感を無視しない描写が出てくると、安心感や親近感といったですね、寄り添える感情が湧いてきます。
「変わらぬよう努力している」という表現が好き
話の本筋からはズレるのですが、とても好きな表現があったので触れておきます。
しかし美和子は本業である保険会社のほうは辞めなかった。
僕の見るかぎり、彼女は彼女以外の何かになろうとは、決してしなかった。
変わらぬよう努力しているようだった。
「あたしは別に有名になんかなりたくなかったんだもの」というのが、彼女の口癖だった。
出典:私が彼を殺したp36
これは、妹の美和子が変わらぬ様子を見て、貴弘が感じた想いです。
美和子は詩集を発表したことで一躍有名となったのですが、それでも浮き足立つことなく、自分らしさを守ろうとしたのですね。
僕は、このシーンがめっちゃ好きです。
いつまでも等身大の自分を守り通して、良い意味で変わらないように努力している人は、とても魅力的に見えますので。
めちゃくちゃ個人的な話になりますが、かつては魅力的に見えた人が、環境の変化によって等身大の自分から離れてしまい、魅力的に見えなくなってしまった経験があります。
その時は、なんだか寂しかったですね。
このようにですね、本筋からズレた部分に魅力を感じてみるというのも、小説の一つの楽しみ方かなと僕は思います。
まとめ
今回は、『私が彼を殺した』のあらすじ・感想について書いてみました。
犯人を当てるのはめちゃくちゃ難しいですが、話の流れ自体はスッと理解できますし、犯人候補の心理描写もリアリティがあって、とても面白かったですね。
犯人を言い当てられる自信が無かったとしても、十分に楽しめる楽しめる内容だと思います。
では、以上となります。
最後まで見て頂き、ありがとうございました。