こんにちは、TKです。
今回ご紹介するのは、東野圭吾の『悪意』です。
当作品では、犯人が日高邦彦という作家を殺すに至った動機を、加賀恭一郎があらゆる手段を尽くして暴いていくという物語が描かれております。
簡単な感想から言うと、めちゃくちゃ深く、とても読み応えのある小説でした。
基本的にミステリーって、犯人が誰であるかを突き止めるものですよね。
加賀恭一郎シリーズもその例に漏れず、これまでの話(1〜3作品)は全て、犯人が誰なのか最後まで分からないという構図でした。
ただ、今回ご紹介する『悪意』はですね、結構序盤の方で犯人が確定するんですよ。
しかし、その犯人が一向に動機を語ろうとしないわけです。
それっぽい動機を語りはするんですけど、どうしても加賀は納得できなくて、納得いくまで動機を見つけるための調査をするわけです。
以上が『悪意』の概要にはなるんですけど、これで理解したと思ってもらっては困るというくらい、内容がめちゃくちゃ深いです。
詳細を語るとネタバレになっちゃうので曖昧に書きますけど、犯人が動機を隠すために施す細工が凄まじいです。
また、人間の持つ『悪意』についても丁寧な考察がされており、読んでいる際にはしみじみと深み感じましたね。
以上を踏まえて今回の記事では、あらすじ・登場人物・感想を述べていきますが、ネタバレになるような情報はほぼほぼ無いので、安心して読み進めてください。
『悪意』の詳細
作品名 | 悪意 |
---|---|
著者 | 東野圭吾 |
発売日 | 1996年9月 |
ページ数 | 359(文庫) |
あらすじ
何者かによって、人気作家の日高邦彦が殺された。
犯人はすぐに逮捕されるが、一向に動機を語ろうとしない。
なぜ日高 邦彦を殺したのか。
悪意とは一体何なのか。
加賀恭一郎が、人間の深い心理を暴く。
主な登場人物
加賀 恭一郎(かが きょういちろう)
主人公。
練馬署の刑事。
真実を突き止めることへの執念が凄まじく、どんな些細なことも決して軽視しない胆力があります。
現在の職は刑事ですが、教師として働いていた過去もあります。
教師時代の後悔が詳細に語られていますので、そこも今回の作品の見どころと言えます。
日高 邦彦(ひだか くにひこ)
被害者。
売れっ子の小説家。
バンクーバーに出かける直前に、何者かによって殺されました。
自室にて死んでいるところを、友である野々口と妻である理恵に発見されます。
庭に毒団子を仕掛けて猫を殺したという話が野々口の手記に書いてあることから、残忍な人物であることが窺えます。
野々口 修(ののぐち おさむ)
主に児童文学を書く小説家。
邦彦の幼なじみ。
邦彦の死体の第一発見者。
昔、加賀と同じ中学で教鞭をとっており、今回の事件で久しぶりの再開となりました。
日高 絵里(ひだか りえ)
邦彦の再婚相手。
邦彦の死体の第一発見者。
元々は邦彦の書く小説の編集者でしたが、次第に仲が深まり、結婚するに至りました。
藤尾 美弥子(ふじお みやこ)
邦彦がバンクーバーに出かける直前、邦彦の家を訪問している女です。
用事は、邦彦の書く小説に兄(藤尾 正哉)が登場しているのですが、その内容が実に不名誉であり抗議するためです。
兄はすでに死んでいるので、代わりに抗議に来たということです。
感想
では、淡々と感想を述べていきます。
構成が斬新で面白い
『悪意』ではですね、起きた事柄を第三者目線で語るという一般的な書き方をされていません。
手記や記録といった、完全に主観的な立場から綴られた内容が掲載されている構成になっています。
実は、この構成だからこそ仕掛けられるトリックがあってですね、僕は見事にやられました。
実際に読む際はですね、斬新な構成にて書かれた小説であることを意識してみると、より楽しめると思います。
些細な要素を綺麗に結びつけるのが上手すぎる!
これは東野圭吾さんの作品全般に言えるのですが、事件に関する要素をめっちゃ散りばめておいて、それを綺麗に一つの結論に結びつけるのが上手すぎます。
本当に秀逸です。
『悪意』でも、いろんな証拠や発言が出てきまして、そこからあらゆる可能性を検討するわけです。
で、その可能性が否定されるような証拠がまた出てくるなどして、展開が二転三転するんですよ。
でも、最終的には綺麗にまとまります。
なんでこんな複雑なフィクションを書けるんだろうと、ほんと不思議に思います。
当たり前を疑え
当たり前だと思っている事柄に一石を投じるシーンが、僕は好きなんですよ。
なぜなら、そこに深みを感じるからです。
深みを感じた瞬間って、この作品に出会えて良かったなって気持ちになりますよね。
で、そういった深みを感じた発言がありますので、抜粋してご紹介します。
教師と生徒の関係なんてのはね、錯覚の上で成り立っているんだ。教師は何かを教えていると錯覚し、生徒は何かを教えられていると錯覚している。
そして大事なことは、そうやって錯覚しているのがお互いにとって幸せだということだ。真実を見たって、いいことなんか何もないからね。
出典:悪意p86
はい、結構皮肉っぽい言い回しですが、僕は好きですね。
当作品を読む際にも言えることですが、錯覚している自分をいかに客観視できるかが、本質に迫るための重要な要素となります。
違和感と向き合う加賀が良い!
加賀は犯人の動機を調査していく中で、ある一つの結論に辿り着くんですよ。
で、その結論は非常に筋が通っていて、それで十分に動機が説明できそうに思えます。
ただ、加賀は心理的に納得できないと思ってですね、調査を続行するんですよ。
その描写がすごく良いので、抜粋してご紹介します。
私が違和感を抱く最大のポイントは、じつはこの四点以外にある。
それは一言でいうならばキャラクターということになる。
出典:悪意p273
キャラクターを考慮した結果、今出ている結論は変だと思うことって、決して理屈に沿った思考法とは言い難いですよね。
ただ、僕は違和感という曖昧な要素に真摯に向き合う人間が好きなんですよ。
理屈で考えれば決して間違ってはいないけど、感覚的には間違っている行動、つまりは違和感を覚える行動を、僕は日常的に目にする機会があります。
ただ、それはあくまでも違和感のレベルなので、指摘することはほぼ無いんですよ。
ただ、違和感という気持ち悪さが心の中に渦巻くので、自然とその人に嫌悪感を抱いてしまいます。
もちろん、逆に違和感を抱かれる立場になることもあるので、僕は違和感をめちゃくちゃ大事にして生きています。
加賀も間違いなく違和感を凄く大事にしている人間なので、好印象を抱きました。
クサい表現が最高
昔の作品だからということもあるかもしれませんが、やや古いというか、クサいセリフがあります。
ただ、僕はそういうのが好きなんですよ。
作品なんですから、多少オーバーでいいのです。
では、具体的に僕が良いと思った表現を抜粋してご紹介します。
今から考えると、あれは一目惚れというものだったのかもしれません。私は彼女を見た瞬間、インスピレーションのようなものを感じたのです。
それは既視感に似たものです。もちろん彼女と会ったのはその時が初めてでした。
だから正確にいうと、いつか出会うことが決まっていた相手に巡り合ったような感覚、ということになるのかもしれません。
出典:悪意p197~198
はい、「出会うことが決まっていた相手」っていう表現、いいですよねぇ。
僕はそういう女性に巡り合った経験がないので、一回は経験してみたいです(笑)。
まあ、これはストーリーの本筋とはあまり関係ないので、忘れちゃってOKです。
ただ、本筋からズレたところに魅力を感じてみるというのも、小説の一つの楽しみ方かなと僕は思います。
まとめ
今回は、『悪意』のあらすじ・感想について書いてみました。
感想でも述べましたが、この作品はなんと言っても構成が素晴らしいです。
そして構成のみならず、証拠や証言を緻密に組み合わせる手腕にも感服しました。
自信を持ってオススメできる作品ですので、ぜひ読んでみてください。
では、以上となります。
最後まで見て頂き、ありがとうございました。