あらすじ・感想

【あらすじ・感想】東野圭吾の『卒業』は、理解が難しい作品でした【ほぼネタバレ無し】

こんにちは、TKです。

今回ご紹介するのは、東野圭吾さんの『卒業』です。

当作品では、共に大学卒業を控えた加賀恭一郎の仲間「牧村祥子」が、アパートの自室で亡くなった真相を解き明かしていくという物語が描かれております。

まず簡単に感想を言うと、『卒業』は理解が難しい作品です。

『卒業』で語られるトリックの種類は様々あるんですけど、その中でも特に重要となるのが「雪月花之式」というゲームです。

これは、茶道と共に行うくじ引きゲームみたいなものなんですけど、とにかく複雑なんですよね。

図解と共にルール説明が詳細に記述されているんですけど、正直、僕には理解しきれませんでした。

この「雪月花之式」を理解することが『卒業』を真に楽しむためには欠かせないので、結構な悔しさがありますね・・・。

ただ、「雪月花之式」を完璧に理解できなかったとしても、大枠を理解できれば話の筋は分かるようになっていますので、そこまで身構えなくても大丈夫です。

また、事件を取り巻く人々の心理描写はわかりやすく、かつ面白いので、普段小説を読んでいる方なら十分に楽しめる作品だと思います。

では、以下では『卒業』の詳細・あらすじ・登場人物・詳しい感想について述べていきます。

極力ネタバレはしないよう心がけていますので、安心して読み進めてください。

『卒業』の詳細

作品名卒業
著者東野圭吾
発売日1986年5月20日
ページ数365(文庫)

あらすじ

祥子がなかなか起きてこない。

「白鷺荘」に住む友人の波香の部屋でくつろいでいた沙都子は、同じく「白鷺荘」に住む祥子を起こしに行く。

ドアを開けると、そこには祥子の死体が。

これは自殺なのか、それとも他殺なのか。

彼女が残した日記を頼りに、加賀恭一郎を含めた仲間たちが真相を暴く。

主な登場人物

加賀 恭一郎(かが きょういちろう)

T大社会学部社会学科4年生。

主人公。

剣道がめちゃくちゃ強くて、学生剣道個人選手権で2年連続優勝を果たします。

父親の影響で、警官は家族を不幸にすると思っている節があり、愛する女(沙都子)のために警官になるのを諦めようとします。

どんな凄惨な場面でも冷静沈着な態度を維持できる、良くも悪くもクールな印象です。

相原 沙都子(あいはら さとこ)

T大文学部国文科4年生。

加賀恭一郎が想いを寄せる女性。

祥子の死が悲しいのにも関わらず、涙が出なかった自分を責めるような繊細さがあります。

ただ、祥子の死体を発見した際は取り乱したりと、クールというわけではないです。

藤堂 正彦(とうどう まさひこ)

T大理工学部金属工学科4年生。

祥子の彼氏。

祥子が亡くなった時に、だいぶ意気消沈していました。

ただ、普段は冷静な男です。

牧村 祥子(まきむら しょうこ)

T大文学部英米学科4年生。

白鷺荘というアパートに住んでいます。

引っ込み思案だが、その様子が愛らしく見えるので、とてもモテます。

沙都子が講義前に部屋に寄ってみたら、死体で発見されます。

金井 波香(かない なみか)

T大文学部英米文学科4年生。

白鷺荘というアパートに住んでいます。

いつも違う男を連れて歩くといったように、男性関係は活発。

剣道一筋。

負けず嫌いで、酒にも強いことから、我の強い女性という印象です。

若生 勇(わこう いさむ)

T大4年生。

テニス部。

井沢 華江(いざわ はなえ)の恋人で、テニスではタッグを組んでいます。

井沢 華江(いざわ はなえ)

T大4年生。

テニス部。

南沢 雅子(みなみさわ まさこ)

加賀らの高校時代の恩師。

茶道の先生。

加賀の内面を見抜くシーンがあったりと、洞察力がずば抜けている印象です。

加賀の父

ある日を堺に、無口な男に。

元刑事であることから、洞察力が鋭く、恭一郎がしばしば頼りにします。

ただ、父と仲が良い感じではありません。

感想

では、淡々と感想を述べていきます。

雪月花之式が難しすぎ!

『卒業』を真に読み説くためにはですね、「雪月花之式」というゲームのルールをしっかり説明する必要があるのですが、ホントに難しいです・・・。

何回も読んでいけばですね、大枠のルールはなんとなく掴めてはくるんですけど、重要なのはそれよりも、ゲームが進んでいく展開なんですね。

作中では「雪月花」を計6人で行うのですが、その6人が「雪月花之式」の中でどんな動きをしたかというのを、事細かに説明してあります。

その説明を全部読んでもですね、「え?何がどうなった?」という感じになってしまうんですよね。

では、実際に「雪月花之式」の一部始終を抜粋しますので、ちょっと読んでみてください。

仮座についた藤堂は、替え札として持っていた番号札を折据に入れると、それを上座へと送った。雪を引いた華江は雪の札と交換に、今藤堂が入れた札を替え札として取り、折据を次に回す。つまり再び札の回収が行われるわけだ。ただしさっきの藤堂の時と同様、雪・月・花のいずれかに当たった者は、連続してあたることがないように、札を戻す時に番号札を替え札として取っておく。たとえば次の若生はさっきは番号札を引いたわけだから、それをそのまま戻す。そしてその次の南沢雅子は月の札とその番号札とを交換し、それを替え札として持っておくわけだ。ところがこの場合、折据が沙都子のところへ来た時には、中には雪と月との札だけが入っており、彼女の手元にある花の札と交換するべき番号札がないことにある。こういう時には沙都子は折据をまず波香の方に回し、番号札を入れてもらったのち折据を返してもらい、花の札とひきかえにその番号札を取るのだ。

出典:『卒業』p166~167

はい、いかがでしょうか?

ちゃんと読む気が失せるくらい、展開が前後していますよね。

ただ、これはあくまでも一部始終で、実際にはこの何倍もの文章が淡々と続いていきます。

で、その文章を全て理解することで、やっと推理のスタートラインに立てるわけです。

ちなみに僕は、自分で推理することは諦めました(笑)。

こういった難解さがあるので、『卒業』は初心者にはオススメできる小説ではないですね。

アパート関連の話はまだ簡単だが・・・

「雪月花之式」というゲームとはまた別に、白鷺荘というアパートで起きた事件の推理も、『卒業』の読みどころと言えます。

先程解説した「雪月花之式」に比べればですね、白鷺荘関連の話は、まだ結構簡単な方です。

ただ、所々に専門的な用語が出てきますので、それが結構読んでいて引っかかります。

まあ、あんまり言うとネタバレになるので詳しくは言いませんが。

東野圭吾さんは、大阪府立大学工学部電気工学科に進学した後に、デンソーに入社したバリバリの技術者なんですよ。

大学や会社で得たであろう知見がふんだんに使用されており、読み応えは凄くあるのですが、そういう話に疎い僕はなかなか読み進めるのに苦労しました・・・。

ただ、専門的な話になった際には図解を入れたりと、素人にも配慮してくれていますので、全く意味不明ということは無かったです。

南沢 雅子(みなみさわ まさこ)が、良い味を出している

加賀の高校自体の恩師である「南沢 雅子」という人物がいるんですけど、個人的には一番好きな登場人物でした。

なんでかと言うと、人の内面に深入りしない配慮が出来ている方だからです。

加賀らが雅子の家に集まり、祥子の死の真相について話し合っている時に、雅子は次のような言葉を残します。

「私はね、あまり知りたいとは思わないの」

「牧村さんが守り続けてきた秘密を暴きたくないからよ。死んでしまった彼女には、あなたたちの追求に対して、何の抵抗もできないんですから」

出典:『卒業』p63

状況証拠から、祥子は自殺したと、この時期は考えられていたんですね。

で、当然仲間としては、なんで自殺したのか気になりますよね。

でも雅子は、躍起になる教え子たちに対して、真相を知りたくないと言ったのです。

この感じ、僕はすごい好きなんですよ。

誰だって、軽々しく触れられたくない想いがありますよね。

僕もそういう想いはあるので、周りの流れに逆らってこういった言葉を吐ける人物は、とても魅力的に映ります。

セリフが渋いのが、なんか良い

『卒業』は発行日が1986年5月20日と、かなり古い作品なので、セリフがところどころ渋めになっています。

ただ、個人的には渋めなセリフが好きなので、結構気に入ってる部分ではあります。

具体的には、以下のようなセリフがあります。

沙都子がカウンターの前を歩いて行くと、テーブル席の一番奥から、彼女を呼ぶ声が聞こえた。ハスキーで男のように低いが、どこか艶っぽさを感じさせる声だ。そちらの方に首を曲げると、思った通り、金井波香が煙草を指に挟んだ手をだるそうに上げていた。

「相変わらず、一人が似合う女だね」

「ありがとう、波香もよ。ごきげんいかが、藤堂君」

波香の横にいた、がっちりした身体つきのわりに端正な顔立ちの男は軽く目で笑って返した。

出典:『卒業』p9

はい、これ登場人物全員、大学4年生ですからね。

いやあ、渋すぎます。

大学生がカウンターで煙草を吸っているなんてかなり渋いですし、大学生が普通「一人が似合う女だね」なんて言わないですよね(笑)。

まあ、セリフの言い回しなんてストーリーに関係ないんですけど、僕はこういうところに目がいっちゃいましたね。

集中と脱力の話が好き

またまた本筋から逸れるのですが、県警の交通課に所属している秋川という男の、集中と脱力の話が個人的には結構好きです。

具体的には、次のような記述がありました。

「問題は防御ですか?」

荒い息を抑えながら加賀は訊いた。

「そうじゃない。君に欠けているのは脱力、ということなんだ。力を投入し精神を集中させるのは一瞬でいいのだということを知ることだ。ただがむしゃらに全力投球しているだけでは、相手にさほど恐怖を与えられない。逆に言えば、余裕を与える」

出典:『卒業』p85

人はずっと集中し続けることはできない。だから、基本的には脱力した状態を維持し、ここぞという時に集中せよという話ですね。

これは剣道の話なんですけど、なんだか、どんな事にも通じる普遍の真理っぽいですよね。

こういう心に留めたくなる言葉がふいに出てくるのも、小説を読む楽しみの一つです。

まとめ

今回は、『卒業』のあらすじ・感想について書いてみました。

感想でも述べましたけど、初心者にはあまりオススメできない作品です。理解が結構難しいので・・・。

ただ、「これから加賀恭一郎シリーズを読み進めるぞ!」という気概がある方は、読んだ方がいいと思います。

シリーズものって途中から読むと、理解が追いつかなくなることが、しばしばありますので。

では、以上となります。

最後まで見て頂き、ありがとうございました。

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