こんにちは、TKです。
今回ご紹介するのは、東野圭吾の『どちらかが彼女を殺した』です。
当作品では、「どちらかが園子を殺したのは間違いない」という確信の元に、兄である康生と刑事である加賀が、競いながら真相を暴いていくという物語が描かれております。
「競いながら」というのはどういうことかと言うと、実は康生と加賀は、協力関係には無いんですね。
康生は妹である園子を殺されたことにめちゃくちゃ憤慨しており、自らの手で真犯人を暴いて、復讐しようとしているわけです。
ただ、刑事である加賀は個人的な復讐など当然看過できませんから、康生よりも早く真相を暴いて、逮捕してしまおうと目論んでいるわけです。
この2人のデッドヒートが、当作品の見どころと言えます。
まず簡単な感想から言うと、かなり面白かったです。
康生と加賀がお互いを出し抜くためにあらゆる手を尽くすシーンは、見ていてとてもワクワクします。
また、タイトル通り『どちらかが彼女を殺した』という事実は、ある程度序盤で分かるのですが、どっちが真犯人なのかはずっと分からない状態で物語が進んでいくので、良い意味でキリのいいタイミングがありませんでした。
「早く真相を知りたい!」という想いが、読み進めれば読み進めるほど募っていくので、かなりの没入感を味わえましたね。
今回の記事では、あらすじ・登場人物・感想を述べていきますが、ネタバレになるような情報はほぼほぼ無いので、安心して読み進めてください。
『どちらかが彼女を殺した』の詳細
作品名 | どちらかが彼女を殺した |
---|---|
著者 | 東野圭吾 |
発売日 | 1996年6月6日 |
ページ数 | 355(文庫) |
あらすじ
どちらかが園子を殺したのは間違いない。
自殺に見せかけて妹の命を奪った犯人を、康生は多様な手掛かりから2人にまで絞り込む。
そこに立ちはだかるのは、練馬所の加賀刑事。
決して相容れない、正義と正義のぶつかり合い。
主な登場人物
加賀恭一郎(かが きょういちろう)
主人公。
現在の職は刑事ですが、教師として働いていた過去もあります。
真相を暴くために相当しつこく聞き込みをしますので、煙たがれることもしばしばです。
ただ、正義の男という印象なので、毛嫌いされるような人物ではありません。
和泉 康正(いずみ やすまさ)
被害者である園子の兄。
豊橋警察署の交通課に所属する警察官。
妹の死体を発見した瞬間に「これは他殺だ」と判断し、一旦妹を放置して、証拠集めに没頭します。
また、警察には自殺だと思わせるために、他殺を匂わせる証拠は極力排除しました。
以上の行動から、「必ず犯人に個人的な制裁を加えるんだ」という、強い執念を感じます。
和泉 園子(いずみ そのこ)
今回の被害者。
康正の妹。
死因は電源コードによるショック死。
大方の意見は自殺ですが、康正と加賀は他殺であると見抜いていました。
自分は大した恋愛などできないと思っていましたが、道端で、佃潤一と運命的な出会いを果たします。
佃 潤一(つくだ じゅんいち)
売れない絵描き。
道端で絵を売っていたら、園子に絵を褒められ、そこから付き合うことになった男。
ただ、絵描きとしての道は諦めるよう親から言われ、付き合う頃には父親が社長を務める大手出版社で働くようになりました。
弓場 佳世子(ゆば かよこ)
園子の親友。
園子が佃潤一を彼氏として紹介したら、なんとすぐに佃潤一と浮気の関係に。
最終的には、佃潤一を完全に奪う結末となります。
小柄ではあるもの、美人でプロポーションが良い魅力的な女性です。
感想
では、淡々と感想を述べていきます。
加賀と康正の戦いが面白い!
『どちらかが彼女を殺した』の見どころは、加賀と康正の戦いです。
加賀は刑事として、園子の死の真相を突き止めようとします。
対して康正は兄として、園子の死の真相を突き止めようとします。
一見利害が一致していそうな2人ですけど、実は一致していないんですね。
加賀は法の裁きを加えるべく捜査をしていますが、康正は個人的な裁きを加えるべく捜査をしているので。
この2人はいずれも、譲れない正義があるわけです。
だからこそ、どっちか一方に肩入れするという感情には僕はならなかったですね。
純粋な気持ちで、2人のバトルを見届けられました。
また、2人とも非常に頭が良いので、捜査の仕方や思考にたびたび感心させられます。
加賀と康正は、全くの敵同士というわけじゃない
加賀と康正は一応敵同士という構図ですが、普通に情報交換をする仲ではあります。
お互い、園子の死の真相を知りたいという意味では、仲間なので。
ただ、お互い先に真相を掴む必要があるので、切り札となる情報は明かさないというイメージです。
つまり、戦友みたいな2人なんですね。
こういう絶妙な関係性から、康正は加賀に対してある想いを抱きます。
では、その想いが分かる文章を、本書から抜粋してご紹介します。
「一杯どうですか」
加賀がコップを持つ手の形を作った。「安い焼鳥屋があるんですが」
康正は相手の顔を見た。その表情には、下心めいたものは感じられなかった。無論実際にはそんなことはないのだろうが、少なくともこれまでに見せていた刑事の顔とは明らかに違っていた。
酒を飲みながら情報を引き出せるかも、という考えが康正に浮かんだ。そしてそれ以上に、この男と飲むのも悪くないと思った。
「奢りますよ」
「いや、割り勘でいこう」と康正はいった。
出典:どちらかが彼女を殺したp259~260
このシーンが、僕はめっちゃ好きなんですよ。
利害が一致していない相手なのに、心の奥底では信頼しあっている感じがカッコいいですよね。
また、抜粋した文章では康正の想いのみが書かれていますけど、また別の文章では、加賀が康正に信頼を寄せるような描写もあります。
証拠が多すぎるので、ちょっと理解が大変
園子の死体を発見した康正は、まず犯人に結びつく証拠集めに没頭します。
その証拠から読者である僕たちも推理をすることができますが、めっちゃ証拠が多いので、結構こんがらがります(笑)。
例えば、以下のような証拠があります。
- 睡眠薬の空袋
- 細く短い鉛筆
- 栓抜きが刺さったコルク
- 空になったワインボトル
- 謎の削り屑
- 郵便受けに入っていた合鍵
- 不自然に残された砂や土
- ビニール製の細長い紐
- 燃えて灰になった何か
と、こんな感じでですね、証拠っぽい物がめっちゃ部屋に残されているんですよ。
いやあ、なかなか混乱しますよね。
また、これで全てでは無いですし、物語が進んでいくごとに他の証拠や証言も出てきますから、ちゃんと覚えておくのが結構大変です。
ただ、最終的には、全ての証拠がキレイに1つの結論に結びつくので、読み終わった後の後味は良かったですね。
ちょいちょい忘れている証拠や証言があっても、必ず最後にそれらが出てくるので。
よくよく考えると、東野圭吾さんはホントに凄いですよね。
これだけ複雑な状況をフィクションとして書くなんて、僕には絶対真似できません。
前作を匂わせる表現が出てくる
今回紹介している『どちらかが彼女を殺した』の前作は、『眠りの森』という作品です。
実は『どちらかが彼女を殺した』の中で、『眠りの森』を想起させるような描写があるんですよ。
こういうのが、シリーズを読み通している僕としてはたまりません。
『どちらかが彼女を殺した』は単体で読んでも面白いんですけど、真に味わうためにはですね、やっぱりイチから順に読んでいくのがいいのかなと思います。
ちなみに、加賀恭一郎シリーズの最初の作品は『卒業』という作品です。
2作目が『眠りの森』で、3作目が『どちらかが彼女を殺した』です。
園子の抱く諦めの感情が好き
園子は恋愛に対して積極的な女性ではなくてですね、自分は対した恋愛なんてできないと考えていたんですよ。
その様子が分かる描写を、抜粋してご紹介します。
佃潤一と出会ってから四日が経過しても、まだ彼のことを考えていることに、園子は自分で驚いていた。
新たな出会いなど、この先はもうないだろう。このところ園子はそんなふうに考えていたからだ。劇的な恋愛など起こらず、誰かに紹介してもらうなどして知り合った男性と、いろいろなことを妥協しつつも結婚することになるのだろうと予想していた。
また、それはそれでいいと考えていた。そういうふうにして結婚していった仲間を、彼女は何人も知っている。それが不幸なことだとは少しも思わなかった。多くの人々は、テレビドラマのような恋愛とは無縁の人生を送るものだというのが彼女の考えだった。
そして自分は多数派以外の何物でもないと分析していた。
出典:どちらかが彼女を殺したp24
はい、なんでこんな文章を紹介したかと言うと、個人的に凄く好きな表現だからです。
何かをほぼほぼ諦めてしまってはいるけど、その諦めの中にも微かな希望を見出すような表現が、僕は好きなんですよね。
この抜粋した文章、ストーリーの本筋にはほぼ関係ないのですが、個人的にグッときたので紹介させて頂きました。
本筋以外のふとした表現を大事にしてみるというのも、小説の一つの読み方だと僕は思っています。
まとめ
今回は、『どちらかが彼女を殺した』のあらすじ・感想について書いてみました。
タイトル通り「どちらかが彼女を殺した」のは間違いないことが、ある程度序盤で分かるのですが、最後の最後までどっちが真犯人か全く分からないので、非常に読み応えがあります。
かなり面白かったので、自信を持ってオススメできる作品です。
では、以上となります。
最後まで見て頂き、ありがとうございました。